古本屋街の匂いの思い出

最近は、ネットで古本を購入する事が多くなりましたが、学生時代も社会人になってからも、古本屋に行くことは大いなる楽しみでした。古本屋に一歩足を踏み入れると独特の「匂い」に心が躍りました。特に神保町の古本屋街に行くときは、お茶の水駅を降りて近くの「お茶の水キリスト教会館」の中にあるCLCに寄って新刊本や目当ての本をチェックし、古本屋街に足を延ばして「友愛書房」「澤口書店」を皮切りに多くの書店を覗いて回ります。CLCではとても手の出ない高価な本も古本なら購入可能な場合もあって、特にキリスト教関連古書店以外の一般的な古本屋で発見できた時の喜びは大きくなります。

古書店街と言えば、同時に思い出す古本屋以外の「匂い」があります。カレー屋から漂ってくる香ばしい薫りと、なぜかいつも路地を入った所にある喫茶店のコーヒーの薫りです。カレーの薫りに負けて本を諦めるか、カレーを諦めたとしてもコーヒーはどうするか、財布との相談になります。購入した古本を抱えて喫茶店に入り、コーヒーの薫りの中と静かに流れる時間の中で買ったばかりの本の一ページ目を開くと言うワクワク感は諦めきれない誘惑です。こんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

しかし、コロナ禍でネット購入に慣れてしまった現在は、すっかり古本屋に行かなくなってしまいました。ましてや古本屋街は遠い存在になってしまいました。ネットであれば古本屋を「はしご」しなくても価格比較や古さ比較もできるうえ、購入が決まれば数日で自宅まで発送してくれます。大変便利に利用させていただいております。

先日、新教出版社ホームページの新刊案内に載っていたある本の案内が目にとまりました。この本の内容紹介を読んでいるうちに、この著書履歴の中に読みたいと思っていた本を見つけました。古本なら安く買えるかもと思い早速ネット検索すると、破格の値段で入手可能な本があることが判りましたので早速発注しました。ところが数日して届いた本は、全く同じ書名の全く別の著者が書かれた本でした。私が良くネット内容を見ないで慌てて発注したのが原因でした。さてこの本をどうしようかと思って書評を読んでみると、私には実に難解でありながらとても面白そうな内容であることがわかりました。偶然にこのような方法で本と出会うこともあるのだと感心しています。

しかし間違いのない本の購入方法は、やはり実際に古本屋に行って自分で本を手に取って確認する以外にはないのだと思い知らされました。コロナ禍で禁じられたようになっていましたが、またあの懐かしい匂いや薫りに囲まれて、ワクワクする時間を取り戻せるようになってきているのだと実感できるようになってきました。

人と人との繋がりも、同じようなところがあるのかもしれません。電話で話すこと、メールで意見交換することは、特に最近はビデオ通話が当たり前になっているようですし、もちろんそれぞれに良さがあると思うのですが、実際に人と人が出会って目の前に相手を認めて、目と目を合わせて会話することこそが、コロナ禍で難しかった分、余計に敵うものは無いのだと思わされています。

遠くに住む親との再会、会えなかった知人や友人との再会の機会が多いこの夏に、多くの「会えてよかった」「握手できてよかった」「ハグできてよかった」という思いを多くの人が持たれるのだと思うと、何とも言えない嬉しい気持ちがこみあげてきます。

このような喜びの中には、礼拝がコロナ禍以前の内容に戻れたこと、礼拝で声を出して讃美歌を歌えるようになったことも含まれていることを感じながら、神様への深い感謝を覚えています。

大澤信之(2023年8月13日 週報の裏面より)

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