親子のだんらんを戴き感謝します
1-2か月前から、長女との連絡が、こちらからの一方的な連絡はしているものの、向こうからのレスポンスがなく、しばし途絶していました。イタリア滞在17年の彼女のことだから、何かあれば連絡があるだろうし・・・さして案じる必要はないだろうと思うことにしていました。たしかにパソコンが故障したのもひとつの理由でした・・・。これは、彼女がスマホを購入して解決しましたが、彼女のことを思うと不安がつのりました。一つはストレス性胃腸炎を発症していました。
彼女はイタリアの社会で、イタリアの文化そのものである<イタリヤ料理>という分野で、力を尽くしています。現在のイタリアで、すこし名のあるリストランテというリストランテには、日本人の若者たちが大切な部分を担っています。彼女の勤めているリストランテ[アンティカ・ロカンダ・デル・ファルコ]は最近評判が上がっています。店は中世15世紀の建物に、城と教会が隣接するロマンティックで美しいたたずまいのなかで、洗練された料理が供されています。イタリアを代表するオーケストラ指揮者のリッカルド・ムーティやデザイナーのジョルジョ・アルマーニもしばしば訪れる有名店になっているとのことでした。どこの国の人であろうと、このデル・ファルコのテーブルについただけで、うれしさと期待で、わくわくします。このリストランテのシェフとして採用されたのが我が家の長女と日本人のT君です。客たちはこれらの料理が二人の日本人シェフによって作られているなど、顔を見るまで想像もできないことでしょう。
日本人の若者に、伝統あるリストランテを委ねきるという英断を下したオーナーのサブリナ・ピアッティさんには、悩みがありました。一般的に、イタリア人は家族と過ごすヴァカンスがとても大切な習慣です。仕事は食べるための苦行で、責任者でもなければ、身を粉にして働くことは、やりたがらないようなのです。別の旅で経験したことです。週日の昼、小さな村の教会を訪ねた折、村のバールに立ち寄ることになって、後でわかったことですが、その村の副村長と助役が、友人のサラミ工場の社長とともに、村のバールでワインを傾けて盛り上がっていたのです。「君たちも一緒にやっていかないか」と声をかけられワインとサラミと生ハム巻きのメロンをごちそうになったことがあります。彼らはわたし達が日本人と知って、声をかけてくれたのです。とてもうれしくありがたいことですが、執務時間中の出来事でした。村の重役がこれですから一般の人はおして知るべしです。
働く気のない従業員を前に、大いに働く気のある若いふたりの日本人シェフを迎えて、オーナーのサブリナ・ピアッティさんはレストラン改革に乗り出したのです。日本人シェフは初めて店を任され、やる気満々でオーナーの意向の実現に力をふるい始めたのです。彼ら二人が創造した料理は評判よく、レストランは予約の取れないほどの客が増えてきたのです。しかし改革には痛みがつきものです。まず極端にやる気がない従業員にはやめてもらうことが避けられません。とはいえリストランテがつかさどる食は、イタリアの大切な文化の一つです。デル・ファルコで長い間働いてきた、多少手抜きと言われても、そこで生活をしてきたイタリア人従業員は、日本人シェフの倍も年齢を重ねてきている人々です。うがった見方をすれば、彼らの伝統と文化そのものである地元料理は、自分たちのものであるのに、ああしろこうしろと命じられても…という思いがどこかにあっても不思議はないでしょう。とはいえ、彼ら作り出す料理の皿一枚一枚は、地元料理をさらに洗練し、客を魅了しています。長女はそこで従業員の誕生日には目の覚めるような美しいバースデー・ケーキを自費で作ってあげているようで大変喜ばれているようです。しかし、従業員は交代で休めますが、シェフは休めません。無理と疲労がたたり、オーナーと従業員の間で、長女はストレス性の胃腸炎をおこし、今回のわれわれの訪伊と短い彼女の休みとなったのでした。職場から離れる意味でも、今回はローマですごすことになりました。団らんを戴き、娘はすっかり元気を取り戻しました。
(2015年07月05日 週報より)