はっきり見えたアルプスの山

「『今年、ご両親来ないの?』ってオーナーが言ってるよ」
娘の電話で昨年の9月の出来事が思い出されました。9月7日、私たち夫婦はトリノ近郊のトレイーゾのリストランテで働いている娘を訪ねるべく最寄駅アルバに向かっていました。列車にゆられながら前日の日曜日での出来事を色々と思い返していました。

まず、ミラノのカトリック日本人教会のミサに間に合うよう、早朝ベローナを出発しました。その教会はミラノの聖堂の真裏にあり、娘が通っていた教会です。2年ぶりにお会いしたルチアーノ神父は笑顔で私たちを迎えてくださいました。早速ミサでの聖書朗読とミサ後のスピーチを 頼まれました。ミサは日本人、イタリア人のため日本語とイタリア語で行われ、「ガリラヤの風薫る」など私たちもよく賛美する讃美歌が歌われました。礼拝堂は音の反響がよくてマイクなど全く必要ありません。威厳のある独特な響きになります。ミサ後、日本からお持ちした和菓子を食べていただきながら歓談の時を持ち、まさにエキメニュカル礼拝ミラノ版とも言える感動のひと時を持つことが出来ました。

ルチアーノ神父は午後パルマにお出かけとのことで私たちは結婚したばかりのジョルジョさん(弁護士)、いずみさん(バリバリのキャリアウーマン)夫妻の新居に招かれランチをご馳走になりました。お二人は教会で出会われ結ばれました。いずみさんは娘が13年前初めてイタリアに行った時、大変お世話になった恩人です。結婚式の写真や、式後のパーティーが開かれたリストランテ(百合香が働いていた)の写真、特に百合香が作ったウエディング・ケーキの写真を見せたかったようです。夕方まで楽しいひと時を持ちました。

夕方にミラノからまた列車に乗ってサリチェに向かいました。滞伊最初の8年間お世話になったリストランテのオーナー、イワン、シモーナ夫妻に再会でき、そこでも暖かいおもてなしをいただきました。

そのような前日の出来事を思い出したり、日本ではありえない車窓を楽しんでいると(プラットホームに可愛い自転車が置いてあったり、ベンチに猫が座っていたり)まもなくアルバ(トリフで有名)の駅に到着しました。

目指すトレイーゾはアルバから約7キロ離れたブドウ畑の岡の上に建つ集落で車でしか行く手段がありません。百合香は仕事中で車を出すことが出来ないため、タクシーを頼んでおいてくれました。駅を出ると満面笑顔で両手を広げ、握手してきた男性が運転手でした。この親しげな出迎えや、どんどん話しかけてくる気さくさは改めてイタリア田舎の良さを実感させてくれました。

私たちはリストランテから歩いて5分くらいのアクリツーリズモ(農家民宿)に滞在しました。早速、リストランテを訪ねたところ、マウリーリョ、ナディア(元夫婦で共同経営者)お二人が歓迎してくださり夕食に招かれました。娘に夕食は8時過ぎに来て欲しいこと、出来る限りおしゃれしてくるようにと言われました。
8時過ぎにお邪魔すると百合香の親友のホール担当のアンネッタ(ポーランド人)が「特別のおもてなしなので前菜の前のおもてなしを」と外庭のテーブルに案内され飲み物と何種類ものお料理をガラスの器に盛ったものが運ばれました。美味しくて私はそれでかなりお腹がいっぱいになってしましました。それから中のテーブルに案内され次々とお料理が運ばれ私はメインにたどりつく前にもうギブアップしてしまいました。
ところが厨房では「百合香のパパとマンマにわたしの作った料理を食べてもらいたい」と各部門のシェフたちが 張り切っていたようでもう食べられないと聞いてがっかりしたようです。「もう作ってしまったから宿に持ち帰って食べて」と包んで下さったりしました。

食事後スタッフの皆に挨拶し、厨房を案内していただいたり、地下のワイン貯蔵庫(イタリアでも5本の指に入るくらいのセラーで6億円相当の貯蔵)を案内していただきました。宿に戻ったのは夜中の3時頃。シンデレラ・タイムの私としては非日常の、長い一日となりました。

次の日の夕方私たちは農家の宿のテラスから夕日が沈むのを見ていました。見渡す限りブドウ畑でその向こうにはアルプスの山が見えるはずなのですがかすんでよく見えません。空はオレンジ色に染まり太陽はぐんぐん落ちていきます。太陽が山の向こう側に落ちたとき、太陽のバックライトを浴びてそこにくっきり黒々としたアルプスの稜線が姿を現しました。その時私は「私はある。私はあると言う者である」出3:14とモーセに言われた神様の声が心に響き感動で胸が一杯になりました。困難や失望の時、神様の存在がはっきり見えなくなり、不安になり、疑うけれど神様はいつも変わることなく私たちと共にいて下さるのだと心に刻んだひと時でした。

オレンジ色の空は濃紺となり再びアルプスの山々は闇に消え、日没のスライドショーは終りました。

小枝 黎子 (2010年09月12日 週報より)

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