イタリアを旅して

今回の訪問は、娘がミラノから列車で一時間弱のピアチェンツァという町の郊外に職場が変わり、昨年来よりオーナーシェフのサブリーナさん(女性)がぜひご両親に会いたというお招きがあったのが直接的な理由です。さらにピモンテにいたときから娘と行動を共にしている相棒のトモさん(日本人シェフ)とかれらの将来について少し話し合う必要がありました。

そのレストランは、一帯が小麦畑と牧草地に囲まれており、清流のトレビア川が流れる田園地帯にあります。レストランの建物は古い塔が聳え立つリバルタ城の中にあります。ツタがからまり中庭は藤棚が広がるうっとりとするくらい美しい所にありました。数年前からサブリーナさんから「このレストランを2人に任せるから、ぜひ来てほしい。私のお店の改革をして欲しい」との誘いがあったのですが当時の彼らは(ミシュランの)星付きのお店にこだわって決心がつかなかったようです。

その後「星付きレストランは料理人としては確かに刺激があり、料理もサービスも最新の技術を極めた料理が多く、学ぶところが多ある。反面余りにも細分化されお客様との距離が遠い」と感じるようになり、「もっとお客様の喜ぶ顔が見え、暖かみのある料理とサービスをしたい」と思うようになったそうです。

その話を聞きながら私は医療の世界とよく似ていると感じました。大病院では最新の技術で先端の医療が受けられるのは良いが、あまりにも専門化し、病人を全人的にではなく部分的に診てしまいがちである。一方、町医者は高価な設備は無いかも知れないが患者のことを良く知っており、より全人的な医療をすることが可能ではないかと・・・。

お料理の世界でも高級な食材で技術を極めたお料理は確かに美味しいとは思うけど、何か物足らない気がします。作る人と食べる人の距離が近く、作った人の愛情や心遣いが伝わるお料理は脳が美味しいと反応するのが不思議です。

そのような訳でこのアンティカ・ロカンダ・デル・ファルコというレストランに移った二人でしたがこの7か月大変な戦いだったそうです。このお店はサブリーナさんがお母さんから受け継いだお店で、村人のために食事を供し、仕事を提供することが当初の目的だったようです。料理人もサービスの人たちもサブリーナさんの優しさに安住していたといいます。レストランで働くのはお客様を喜ばすことより、ただお金のためだけに働いていたため、『いやな仕事はしない』『失敗は他人のせいにする』『仕事を好きな時休む』『食材を、勝手に食べてしまう・・・!!!』。およそ星付きのレストランでは決してない働き方が常態化していたとのことです。そうしたイタリア的いい加減さがサブリーナさんにとっては我慢の限界を超えていたようです。改革を期待して招かれた二人の日本人シェフは、全員ではないにしても、それまでのやり方が心地よいと感じている働き人の無視や嫌がらせに直面しなければならなかったようです。

結局、忍耐し、根気よく改革が進められ、7人くらいの人たちが辞めて、最近は新しい方たちが入り徐々に体制が整いつつあるのだそうです。サブリーナさんも二人を信頼してすっかり任せて喜んでいました。その分責任が重くなり休暇が取りにくく、しばらく日本に帰れそうもありません。娘の腕を見ると筋肉が盛り上がり両腕はやけどの跡だらけで痛々しかったです。でも毎日感謝と喜びを持って働いていました。これからも周りの人たちを大切にしながらさらによい方向に向かって欲しいと願っています。

イエスさまが律法を守ることだけに安住し、心を忘れたユダヤ人に対して語られた言葉と行動はどんなにか彼らにとって不快な言葉であり、いやな存在であったかを思います。イエスさまはその様な抵抗勢力と戦われ、遂には十字架に架けられてしまいました。けれどイエスさまの改革が私たちに平安と自由をもたらしたのだと感謝な思いでいっぱいになります。

小枝 黎子 (2013年07月14日 週報より)

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