平和を求めて

今年の春は私にとっていつもとは違った特別な時でした。家でおとなしく物を作る事が好きな私には珍しく活動的で刺激的でした。日頃はキリスト教関係者との交流が多いのですが、立場の異なった方たちや分野を異にする方たちとの多くの出会いを経験した豊かな時でもありました。いくつかをピックアップしたいと思います。

4月半ば、知人の誘いを受けて渡辺格(いたる)とおっしゃる分子生理学者の講演会に参加しました。この方は世界で初めてDNAを発見なさった方でお弟子さんの中にはノーベル生理・医学賞を受けられた利根川さんがおられるとのことです。講演の中、「20世紀は価値観の違いから闘争や戦争へ、進歩の世界になったけど閉塞の世界になった」「脳の研究は進んだが、人間がどう生きるべきかなど、より精神的な研究が必要」と述べられたことが以外で印象的でした。宗教の必要性を感じました。

5月の初め、憲法記念日には生まれて初めてデモに参加しました。日比谷公会堂で持たれた平和集会は会場に入りきれない人々で日比谷公園はあふれ、熱気に満ちていました。集会のあとのデモ行進は、各団体ごとに出発し、宗教関係者はキリスト者を先頭にクリスチャンは讃美歌を歌いながら、仏教徒は太鼓をたたきながら銀座から東京駅を越えるところまで行進しました。今回私を参加に動かした背景として64年前の話があります。私の母は結婚前広島で牧師として開拓伝道をしていた理由で、結婚10日後、治安維持法で逮捕され10ヶ月間留置場にぶちこまれました。今回、現代版治安維持法ともいわれる共謀罪や国民投票法、教育基本法の改悪など信教の自由や人権が踏みにじられるような法律が十分審議されないまま成立させてしまうような動きに危機感を覚えたのです。参加を通して自由と平和のために一生懸命に活動している多くの方々に触れ心動かされました。

5月の末、恵泉女学院大学のスプリング・フェスティバルに参加しました。大好きなお花が見たかったし、新しく学長さんになられた木村利人先生のバイオエシックス(生命倫理)に関するスピーチに興味があったからです。先生は「インホームドコンセント」を日本に紹介なさったお方で「幸せなら、手をたたこう」の歌を作詞された方でもあることを知りました。生命倫理のお話もすばらしかったですが、先生の若々しく信仰に裏打ちされた暖かい眼差しを深く感じ、もう少し私が若かったらこのようなすばらしい学校で学びかったと思いました。

6月は八王子の9条の会主催の講演会や多摩ニュータウンの協力教会主催の西川重則先生の講演会など憲法に関する学びの場が多く与えられ、他宗教の方々や地域の人々との思いがけない交流が与えられ嬉しく思いました。

6月の末には東京ミッション研究所・東京聖書学院主催の牧師研修会に参加しました。アメリカから今、世界中の司法界が注目しているハワード・ゼアをお迎えしての講義でした。先週の週報で牧師が詳しく書いていますが「修復的司法」という「犯罪被害者と加害者の和解を目指すプログラム」を構築された方です。たくさんの事例を紹介するだけでなく、実写のビデオなどを使って講義してくださいました。本当に信じられないような和解の場面に何度も涙しました。犯罪者との接点は私たちの日常にはありませんが、和解を必要としている場はたくさんあります。夫と妻、親と子、人と人、国と国。もうだめだと自らの壁を築いてしまって、その壁をより厚くしてしまい、自分だけでなく相手をも傷つけている現実を感じました。

「神は、キリストを通してわたしたちをご自分と和解させ、また、和解のために奉仕する任務をわたしたちにお授けになりました。つまり、神はキリストによって世をご自分と和解させ、人々の罪の責任を問うことなく、和解の言葉をわたしたちにゆだねられたのです」

コリントの信徒への手紙5章18,19

副牧師 小枝 黎子 (2006年07月09日 週報より)

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