NPO法人<ROOM TO READ>て?

先週の朝日新聞のコラム<ひと>欄にジョン・ウッドさんというアメリカ人が紹介されました。この人は現在44歳。9年前の35歳のときにマイクロソフト社の中国事業担当重役というキャリアを投げうって、アジアの貧しい国の貧しい子供たちへ本を贈るNPO法人<ルーム・トゥー・リード>をたちあげた人です。今ではこの働きを通してカンボディア、インド、ラオス、ネパール、スリランカ、ベトナム、南アフリカのこども達に三百万冊の本を送り、学校建設をし、図書館を建て、教育資金を提供しています。

事の発端はこの人が、仕事の疲れを癒すためにしたヒマラヤ・トレッキングの途中で立ち寄ったネパールの小学校でした。そこには十数冊の本しかなかったことにショックを受けたことです。教育を受ける機会すら与えられていない貧しい人々のおかれている状況をその目で見たのです。訪ねた小学校の校長先生から「次にあなたがお出でになるときにはぜひ本をいただきたい。」と懇請されたのです。彼は直ちにアメリカにEメールを送り、友人達が動き、2週間後に、その学校には3,000冊の本が届いたのだそうです。彼自身もその足で帰国して、新たに2,000冊の本を集め、ヤク(ロバのような荷役用の動物)6頭の背にその本の束を載せて、みずから本を届けたのだそうです。

そこから始まったこの NPO、現在は130万人をこえるこども達のために、287の学校建設、3,870の図書館を設立、130万冊の代表的な児童書を現地語で、140万冊の英語版の児童書を贈呈し、また女子児童には教育不要という現実の中で3,448人の少女達に奨学金を提供、その他の事業を展開中との事です。マイクロソフト社の重役職をなげうった結果、「高年俸も恋人も失った。でも、誰かが何かしなければ世界は変わらない。」ご本人の言葉として新聞が紹介しています。「ルーム・トゥー・リード」は2020年までに途上国の子供1千万人の教育の場を与えることを目標として掲げています。

雑誌<世界>3月号に次のような恐るべきアムネスティ報告が伝えられています。2001年アフリカのギニア沖にいた船から120人の子供たちが消え、コートジボアールのカカオ(チョコレートの原料)農園に人身売買されていたことが後に判明した。2005年にこれに関わったとしてネスレ社に対して、このこども達が原告となって、米国で訴訟が起こされたのです。子供たちは人身売買と虐待でほとんど食わず寝ずで1日に12-14時間働かされていたそうです。また、同様に日本企業であるブリジストンもアフリカのゴム園でこどもに過酷な労働を強いたとして裁判を起こされているとの事です。世界を代表するような名だたる企業が、なお人身売買による奴隷労働に手を染めているこの不正。

世の中の<明>と<暗>をきわだたせるこの対照的な出来事。何がこの人ジョン・ウッドさんをしてそこまで突き動かしたのかは、明確ではありませんが、NPOのホームページに時折出てくる表現は<マザー・テレサの愛の心>です。言葉で賞賛するのは簡単ですが、一方的により高い収入と地位だけを求める上昇志向からは生まれるはずはない、貧しい子供たちのためへの献身。そこになんらか信仰的な動機があるかもしれません。
他者のために少し貧しくなろうとする生き方は、マザーテレサの生きかた、キリスト教的生のあり方には明確です。無論それだけにはとどまらないだろうけど。あまりに明確に現れる明と暗、光と闇は人の心が造り出す世界です。
人間がどこまで人間的な社会を作り出していけるのか。暴力や心の荒みに、この心をゆだねないで、愛の心に生きうるのか。現代はさまざまに個々の人がためされます。

(2008年02月17日 週報より)

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