主よ、言ってしまいました

主よ、言ってしまいました 私はカッとなっています
身振り手振りでことばをつくし、まくしたてたので
わたしはとうとう頭にきてしまいました
わたしは全身をうちこんで語ったのに
たいせつなことは何一つ通じていないのです
たいせつなことは、わたしのものではなく
わたしのことばは、それを運ぶには
あまりにもあさはかなのです。

主よ、言ってしまいました。わたしは心配です。
しゃべることは深刻なことだから、こわいのです。
他人のじゃまをし、外に引っぱり出し
玄関先に立たせるのはたいへんなことです
他人を待たせ、手をのべさせ、心をはずませて
光を求めさせ、生きる勇気をおこさせることは大変なことです
しかも主よ、もしその人たちを、むなし手で帰らせたなら
わたしはどうしたらよいのでしょう

しかし、主よ、それでもわたしは語らねばなりません
このしばらくの時、あなたがわたしに語ることばを
くださったので わたしはそれを使わなくてはなりません
わたしの魂を、他者にむかってあけわたすために
ことばは唇にむらがってきます
ことばがないなら魂をどうしてあけわたすことができましょう
肉にとざされた幼子の小さな体の中はわからなくても
ひとこと、ふたこと語ることばで、小さな魂があらわれると 家中みんながよろこぶのです
だれかが死ぬとき、その絶望的な枕辺でかたる臨終の言葉に 家中みんなが耳をすますのです
やがて息をひきとってしまうと、沈黙のとびらが閉ざされ 目が閉じ、唇がつぐむなら、肉親は死人の魂をもはや知ることはできません

主よ、ことばは賜物です
だからわたしも、誇りや臆病や怠慢や無情のゆえに
だまっていることは許されません
他者もまた、わたしのことばにこたえ、
魂に聴く権利をもっています
わたしがあなたの使信を預かっている以上
わたし以外にだれがそれを伝えることができましょう
私には言わねばならないことがあるのです
たとえそれが短くても、わたしのいのちから溢れでて
わたしがそれに背を向けることができない何物かがあるのです
しかし、わたしのことばは真実なことばでなければなりません
他者の目をひくために、ことばの隠れみので
魂のほんとうの姿を隠してしまうなら信頼が破れてしまいます
わたしが注ぎだすことばは生きたことばでなければなりません
わたしの魂が自らとらえた神秘
この世界と人間とに示される神秘にみちていなければ
なんの役に立つことができましょう

わたしが語ることばは
神をはこぶことばでなければなりません
主よ、あなたがわたしにお与えになったこの唇は
わたしの魂をあらわすためにつくられ、わたしの魂は
あなたを知り、あなたに結びつくためにつくられたのです
しゅよ、お赦しください、あんなことを言ってしまって
お赦しください、わけもないのに言ってしまって
お赦しください、わたしの唇をあさはかなことばでけがしたことを、
いつわりのことば、臆病なことばの中を
あなたはお通りになることはできません。

主よ、わたしが語るときには、わたしの心を高くあげ
わたしが会議で論じ、兄弟と語りあうときには
わたしを支えてください
それにもまして主よ、わたしのことばがまかれた種のように
それをきく者が、
豊かな実りをのぞめるようにしてください。

ミシェル・クオスト「神に聴くすべを知っているなら」

2023年2月5日 週報の裏面より

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