こんなことがあるなんて
ある総合雑誌で次のような記事を読みました。これは日本のマスコミには全く伝えられなかった出来事だそうです。
約1年前の2008年12月11日にアメリカを代表するヘッジファンド<バーナード・L・マードフ・セキュリティーズ-BMIS>が経営破たんしたのです。しかもその内容は古典的なねずみ講によるものだと後々判明したのです。被害額はなんと、なんと650億ドル(日本円にして6兆5千億円ほど)。被害をうけたのはUBS(いわゆるスイス銀行)、HSBC、BNPパリバ、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド、野村證券ほか名だたる機関投資家、ヘッジファンド。個人としては名の知れた富豪、王族、名士が含まれているとのことです。BMISの総責任者マードフは詐欺、偽称、資金洗浄、窃盗など11の罪に問われ、今年の6月29日、71歳にして法が定める最高刑、150年の実刑が言い渡され、服役したそうです。
マードフは22歳の頃から実直な金融業につき、アメリカ金融界の頂点に上り詰め、90年から93年までナスダック会長を務めたり、米国証券業協会でも要職を果たしていた人物とのことです。社会的信用にはなまるマークがつくほど、怪しさなど微塵もない人物、人道問題にも深い理解ある篤志家としてその名前はアメリカ中に響き渡っていた。数多くの篤志家たちが、この信頼厚い金融家を信頼して、慈善活動の資金を得るために多額の資金をこの詐欺師にゆだねてしまったのです。スティ-ヴン・スピルバーグや、アウシュビッツから生還したノーベル賞作家エリー・ヴィーゼルもその一人でした。
エリー・ヴィーゼルは<個人資産二千二百万ドル><エリー・ヴィーゼル人道基金から千五百万ドル>を失い「わたしたちは彼を神のように思い、すべてを託してしまった。」と嘆いたのです。エリー・ヴィーゼルがマードフに面会したのはたった2度、お金の話は全くなく、話しの内容は教育と倫理だけだったとか。
フランス金融監督庁の試算ではフランス国内だけで、5億ユーロ(日本円では685億円ほど)が失われ、被害にあった人数は3千人から5千人の預金者におよぶそうだ。そしてマードフはそのうちの1セントすら、投資に回していなかったと告白しました。
善良な篤志家、倫理と教育に深い関心を持った金融マンという羊の皮をかぶり、20年以上も人々を騙し続けた稀代の詐欺師。騙すほうが悪いのか、騙されるほうが悪いのか。マードフ自身は、自分は一部の投機マネーや、ハイリスク商品に手を出さずに利を得るほうがよいと周囲に話していたそうだ。とはいえ彼は金融の天才との評判を勝ち取り、顧客に10-15%の利回りを約束し、一部の特権的な顧客なら投資額を増強することでさらに高い利回りで運用も可能として、上流階級の金持ち達に食い込んでいった。
こうした事件は余裕の金など持たないわれわれ一般庶民には無縁な話です。でもただひとつ教えられることがあります。それはだれにも共通する欲望です。欲望が、かつては実直だった金融家を狂わして、それまでかち得た信用を投げ捨て、破綻必定のねずみ講に突っ走るこの狂気においやるのです。またマードフの妻は夫が逮捕される前日に会社の口座から千五百万ドル(15億円)をちゃっかり引き出したことが分かっています。資金を預けた人々も、気の毒ではあるけれど、カネの誘惑に目をくらまされたのです。持っている人も、持っていない人も、金銭の誘惑には弱いのです。
ここにサタン(マモン)が住み着きます。善良に生きてきた人が、突如、カネの亡者に成り下がります。これはその人の品性や理性の問題ではないのかもしれない。不思議なことにお金は偏在します。ゆたかな人のところにはますますマモンは集まり、少ない人のところからはますます羽根がついて去っていくのです。だからこそ、少しでも分かち合う心が、ますます必要になるのです。
マードフごときに6兆5千億円も持っていかれた。それが貧しさに苦しむ人々のもとにいったらどんなに良かったことか。でもたとえわずかでも、分かちあおう。われわれの財布は小さくても、99.9%がわれわれ庶民なのだから。神がわれわれの持ち合うものを、何百倍にもしてくださる。今日は教会バザー。神に栄光あれ。
(2009年10月25日 週報より)