上海一見
先週私ども夫婦は呉暁燕さんのお勧めと御案内で生まれて初めて中国・上海市を訪ねました。一つには暁燕さんのご両親がわざわざ、われわれのために3時間かけて上海へとお出ましくださり、ホテルに一泊して、会ってくださるという機会をいただいたからでもありました。上海は成田から往路3時間、復路2時間余という短時間の距離にあることを知って、その近さにあらためて驚いたのです。ツアーの費用も東京―札幌間の航空料金ほどで、4日間現地ガイドの若いお嬢さんがあちこちに案内してくれ、たった4人のために十数人乗れるワゴン車がチャーターされ、ホテルもわたしたちが時折行くヨーロッパの安宿とは全く違う快適な宿泊が提供されました。
感想を?と問われれば、これはあくまで私の一見・私見で、他の人とは異なるでしょうし、間違ってさえいるのかもしれません。しかしやはり一見は百聞に優る、と思えます。私の目から見れば上海は<沸き立つお湯-boiling water>のように感じました。上海は黄浦江という川で二分されていますが、わずか20年前には田んぼだった川向こうが上海のWorld Financial Center (世界金融センター)とよばれる超高層建築のビルディングが林立しています。その中で最も高いビルが森ビルで100階建て。ここから夜10時半過ぎに夜景を見るために最上階に行き、上海の全景を眺めました。一時万博でストップしていたビル建設ラッシュはふたたびヒートアップして、沸騰する上海を改めて実感したときでもありました。
韓国を訪ねても、上海でも、どういうわけか、われわれが日本人であることは、現地の人々はひと目で見分けられるようです。でもわれわれを見る目は温かさがあります。中国に関して、日本の新聞にはネガティヴな<尖閣><反日デモ>がしばしば報じられます。それは確かに事実の一端を語っているのでしょう。けれどそれは中国にとって解決すべき多くの課題の一つでしかないのです。そして中国人の心はさらに大きいという実感がします。かつて私が生まれる数年前に上海事変があり、多くの中国人が上海で犠牲になり、さらにそれが南京事件につながったことは厳然とした事実です。
今回、地下鉄10号線で移動中に、一人の若い女性が電車の行き先についてとなりの人に尋ねだしたところ、たちまち4-5人の人がこう行けばよいと答え始めました。その時すかさず、連れ合いが地下鉄の路線表を彼女に渡したのです。するとその女性が「謝謝」と応じたのは当然でしたが、周囲のおじさんの一人が「アリガト ゴザイマス」とあやしい日本語で応答したのです。他の人々も含めて、険しい表情など、この時も、他のときも、出会うことは全くなかったのです。 Political issue として<尖閣問題>や<反日運動>があることは事実でしょう。けれど過去を踏まえて、現在の中国の人々と友情を築いていくことに 障害など何もない、と言えるのではないでしょうか。
かつてのフランス租界(租界は列強が中国を植民地化したときの治外法権地区。中国人は立ち入ることが許されなかった)は、いま新天地と呼ばれて、カフェやレストランが集中して、どこかヨーロッパの一つの町に踏み入ったような印象があります。ところが近づいてみると、耳をつんざくディスコ・サウンドが響きわたっています。何ごとかと思うと、通り2-3百メートルに幅2メートルほどの一段高いステージが出来ており、なんと屋外ファッションショウが公開で行われていました。目をひく美しい若い男女のモデル達が次々に登場します。なかには上海マイケル・ジャクソンも踊っているではありませんか。目をみはりながら、あらためて新しい中国を感じたことでした。
丸一日、暁燕さんのご両親がわれわれに付き合ってくださいました。そして絶品の上海蟹をご馳走してくれました。(由木教会の皆さんごめんなさい。) 食事の途中で、暁燕さんのお父さんが、わたしの言葉に答えて、何度も立ち上がって、杯を上げて「仲良くしましょう。過去は過去として、未来を作って生きましょう。中国に何度も来てください。今度は我が家に来てください。わたしたちは兄弟、姉妹です。」手を握り、肩を組み、涙目になって、語り合ったのです。4日といっても、正味2日の滞在です。でも、なにか、一週間くらい滞在していたような旅でした。
見えたのはまさに沸騰する中国でした。沸騰したお湯は、お茶になり、スープにもなり、料理になります。沸騰する中国は今後も激しく変容することでしょう。この11月、韓国・ソウルから鉉静さんのお母様が来日し、また上海で暁燕さんのご家族にであい、その背後にある韓国・中国の文化に思いをはせるときとなりました。大変な過去があったにもかかわらず、隣人としてわれわれを受け止めてくださったこの友情の篤さに感激しながら、まさに教会だからこそ、この出来事があるコトを深く実感した月でした。
(2010年11月21日 週報より)